ブドウウイルス病とその判別法表2Rugose wood complex...

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- 1 - ブドウウイルス病とその判別法 ブド ・カキ 1.はじめに ブド イルス 、リーフロール じめ以 から られていたが、 されている が多い。これ イルスが されず、 イル あったこ イルス ため、コッホ され いこ えられる。 RT-PCR による遺 により、 イルス 易に えるように った。 する9 ブド イルス これら RT-PCR による され( , 2002, , 2003)、 について られ めている。 2.ブドウウイルス病の病徴と被害 ブド に感 する イルス 14th ICVG (Martelli, 2003)によれ 55 がリストに げられている。これら うち、 ブド められ されている 10 あるが、これら 他に イルス あり、 めている。 1) リーフロール病 ブド イルス うち、 られている 「リーフロール ある。 により あるが が巻き、 する がら く変 し、 る。ただし、 ピオーネ ある。こ えられる イルスだけ り、Grapevine leafroll-associated virus (GLRaV) 1-9 されているが、 による リーフロール がす イルス されているわけ い。これら うち 1, 2, 3 され、 「ブド イルス」 1, 2, 3 されている。リー フロール によるブド 20がある(Stellmach and Goheen, 1988)。 しかし、遺 イルスが る以 かった ルス感 それら について ある。 、リーフロール 、1 があり、これ あって じる がある (Kovacs et al. 2001)。また、 GLRaV-3 GVA に感 たブド により する 、アントシアニンが に多く し、 したが、 かった ある(Guidoni et al. 1997)。 GLRaV-1, 3 カイガラムシ られており、 クワコナカイガラムシ による が確 された( ら,2003)。

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ブドウウイルス病とその判別法

(独)農業・生物系特定産業技術研究機構

果樹研究所 ブドウ・カキ研究部 中野正明

中畝良二

1.はじめに

ブドウのウイルス病は、リーフロール病をはじめ以前から知られていたが、病名目録を

見ても病原未確認とされているものが多い。これは、病原ウイルスが発見されず、ウイル

スの診断が困難であったこと、ウイルスの戻し接種が困難なため、コッホの3原則が満た

されないことなどが原因と考えられる。近年、RT-PCRによる遺伝子診断法の開発により、

ウイルスの診断は比較的容易に行えるようになった。我が国でも、国内に発生する9種の

ブドウウイルスとこれらの RT-PCRによる診断法が実用化され(中畝ら, 2002, 中畝, 2003)、

この診断法を用い発生実態や伝染方法について試験を行い知見が得られ始めている。

2.ブドウウイルス病の病徴と被害

ブドウに感染するウイルスの種類は、14th ICVGの総説(Martelli, 2003)によれば、世界で

55 種類がリストに挙げられている。これらのうち、現在、国内のブドウで発生が認められ

報告されているのは 10種類であるが、これらの他に未同定のウイルスも数種類あり、現在、

同定を進めている。

1) リーフロール病

ブドウのウイルス病のうち、良く知られているのは「リーフロール病」である。秋にな

ると品種により程度の差はあるが葉が巻き、果実が赤や紫に着色する品種の場合、葉は葉

脈の緑色を残しながら赤く変色し、果実が緑の品種の場合は黄化気味になる。ただし、巨

峰やピオーネでの病徴は不明瞭である。この病原と考えられるウイルスだけでも9種類あ

り、Grapevine leafroll-associated virus (GLRaV) の 1-9と命名されているが、単独感染による

リーフロール症状がすべてのウイルスで確認されているわけではない。これらのうち国内

では 1, 2, 3が検出され、和名は「ブドウ葉巻随伴ウイルス」の 1, 2, 3とされている。リー

フロール病によるブドウの収量低下は 20%との記述がある(Stellmach and Goheen, 1988)。

しかし、遺伝子診断でウイルスが検出可能になる以前の試験では、検出できなかったウイ

ルス感染の有無やそれらの影響については不明である。最近の報告例では、リーフロール

病の感染で、糖度の低下、酸の上昇、1果粒重の低下などの影響があり、これは無病徴感

染であっても生じるとの報告がある (Kovacs et al. 2001)。また、GLRaV-3と GVAに感染し

たブドウを熱処理により無毒化すると、アントシアニンが早期に多く集積し、光合成は感

染樹で低下、樹勢と糖度は無毒樹で増加したが、収量、酸度には影響がなかったとの報告

もある(Guidoni et al. 1997)。

GLRaV-1, 3 はカイガラムシ類での伝搬が知られており、国内でもクワコナカイガラムシ

による伝搬が確認された(中野ら,2003)。

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2) ルゴースウッド

定植後 10 年近く経って、太くなってきた樹の粗皮剥ぎを

行うと、樹皮が剥げにくい部分が生じている場合がある。こ

のような場合、往々にして、その部分に小さな窪みやしわの

ような溝が多数生じている。このような病徴をピッティン

グ、グルービングなどと呼んでおり、これらの粗皮症状を総

称して「ルゴースウッド」と呼んでいる。接木で再現される

場合があるため、ウイルス病と考えられている。海外では

GVA, GVBなどとの関連が言われていたが、国内の調査では

必ずしもこれらのウイルスとの関連は高くないとも報告さ

れていた(今田・浅利, 1996)。最近の研究では、Rupestris stem

pitting-associated virus (RSPaV)との関連が示唆されると報告

された(中畝・中野,2003)。3種のブドウ属指標植物への接

木検定により表2のように4病害に分類されている。病徴と

して、樹勢の低下、発芽遅延、接ぎ木部上部の肥大、樹皮の

肥厚とコルク化組織の形成(コーキーバーク)、ピッティングやグルービング、葉巻、葉

の黄変・赤変などが報告されている。接木接種しても発症までには数年かかる場合が多い。

ルゴースウッドの被害は、栽培条件にもよ

るが、ピッティングが激しくなり、定植後

10 年位で樹勢の低下により片側主枝の切断

や、改植せざるを得なくなる場合もある一

方、30 年間栽培を続けてもほとんど問題が

ない場合もあるなど、生産への影響は個別

事例ごとに異なる。果樹研究所としては、

RSPaV による被害は明らかではないが、被

害なしとは断言できないので、最新の手法

でウイルスが検出された品種の穂木の供給

を停止している。

RSPaVは接木伝染のみが認められているが、GVA, GVBはカイガラムシ類による伝搬が

知られており、国内でもクワコナカイガラムシによる伝搬が確認された(中野ら,2003,

2005)。

3) その他のウイルス

植物防疫所の行っている「果樹母樹ウイルス検査」では、ELISA による血清検定でブド

ウファンリーフウイルス(GFLV)を、接木検定でリーフロール病、ルゴースウッドの中の1

表2 Rugose wood complex のブドウ属指標植物上での反応

──────────────────────────

病名 St.George LN 33 Kober 5 BB──────────────────────────

Rupestris stem pitting P - -

Corky bark P, G P, G, St, Rd, Sw -

Kober stem grooving - - GLN 33 stem grooving - G -──────────────────────────

P: pitting G: grooving St: stunting Rd: 葉巻と赤変

Sw: 節間の肥大

写真1 ルゴースウッド症状

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つコーキーバークとブドウフレックウイルス(GFkV)を検定している。

GFLVは葉の奇形などを伴う激しい病徴が生じ、土壌(線虫)伝染性であるが、著者の知

る限り、国内での発生は試験場の古い遺伝資源樹に限られており、一般農家での発生例は

ないようである。

GFkV は単独感染で経済品種には病徴を生じないが、国内で 1955 年頃発見され 1960-70

年代に問題となった品種「甲州」の「味無果病」は、果実が着色不良で糖度が上がらず食

味不良となる病気で、山梨での研究の結果、リーフロールウイルスとフレックウイルスの

重複感染樹での糖度低下が著しいことが明らかとなった(寺井・矢野,1985)。ブドウ属の

検定植物 St. Georgeへの接木接種により退緑斑が生じることで判別できる。

ブドウえそ果ウイルス(GINV)によるえそ果病は、新梢の節間短縮やえそ条斑を生じ、葉

にはモザイクが現れ奇形化する。果実にはえそ斑が果面に多数現れ、果肉内部まで達する。

症状の激しい果粒は着色不良で成熟せず商品価値がなくなる。一部地域の巨峰群品種で発

生したが、虫の徹底防除と発症株の伐採により、ほとんど見られなくなった。ただし、デ

ラウェア等には無病徴で感染するため、ウイルスは存在し続けている可能性がある。GINV

は、毛せん病の原因として知られるブドウハモグリダニにより媒介されることが報告され

た(功刀ら,2000)。

4.今後のウイルス病対策

これまで、ブドウのウイルス対策として、「ウイルスフリー苗木」の利用が推奨されて

きたが、ここ数年で GLRaV-3等の虫媒性が明らかになってきたこと、RSPaVのように、こ

れまで診断できなかったウイルスが診断可能となった上に、病徴との関連も示唆されてき

たことなどから、再度ウイルス対策について考えるべき時に来ている。

「ウイルスフリー」と称してはいるが、検出技術の進展に伴い、新たなウイルスや既知

ウイルスの新系統など、それまでの技術では検出できなかったウイルスが見つかることも

あり、どんなウイルスも感染していないことを保障するものではない。厳密には「検定対

象とした特定のウイルスについては検出されない」苗木を「ウイルスフリー」と呼んでき

たと理解する必要があり、一般にそのように理解されないとすれば、「特定ウイルスフリ

ー(Specific Virus Free: SVF)」のような表現法も検討する必要があるかも知れない。

虫媒伝染性ウイルスについては、ウイルスの性状と虫の生態から推察する限り、通常で

は急速な蔓延や遠距離への伝染はほとんどないと考えられる。また、伝染源はブドウ以外

にはないことから、媒介虫が生息していても、近くにブドウの保毒樹がない限り感染の危

険はまず考えられず、今後も栽培者の段階でのウイルス対策の基本はウイルスフリー苗木

の利用である。もし、保毒樹がある場合にはコナカイガラムシの防除をより的確に行うこ

とが注意点として加わる。

そこで今後は「ウイルスフリー(SVF)苗木」の供給と、それを担保する検査システムの整

備が課題となる。果樹研究所育成品種については、茎頂培養による無毒化処理後、隔離栽

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培とウイルス検定による厳格な管理を行って供給する体制を整えつつある。種苗業者や都

道府県の品種及び台木の母樹については、植物防疫所が未知ウイルスの検出も可能な接木

による生物検定と ELISA による検査を行っており、高い水準での検査システムができてい

る。さらに数年に1度、母樹や苗木の増殖栽培中に心配される虫媒ウイルスと新ウイルス

について、最新の情報に基く RT-PCR検定を行うシステムができることが望ましい。

苗木販売前の段階での検定体制の整備とウイルスの生態を理解した上での栽培がそろえ

ば、ブドウのウイルス病を防ぐことはそれほど難しいことではない。

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5.ブドウウイルスの遺伝子診断法の実習

前述したように、ブドウウイルス病は世界的に重要な病害である。近年、海外で多くの

種類のブドウウイルスが報告されているが、わが国における発生実態やウイルスと病徴及

び被害との関係については明らかになっていない。これらを明らかにするとともに、ウイ

ルスフリー苗木の供給などのウイルス病対策を進めるためには、わが国に発生するブドウ

ウイルスの確実な診断法の開発が不可欠であり、Reverse transcription (RT)-PCR による

効率的かつ高感度な遺伝子診断法を開発したので紹介する(図1)。

[本診断法の特徴]

1.ブドウからの RT-PCR 用サンプルの抽出操作を簡便化することにより、葉柄から短時間

のうちに少ないステップで効率よく RT-PCR を行うことができる。

2.RT 反応時のプライマーとしてランダムプライマー(6 mers)とオリゴ d(T) (16mers)を

混合使用することにより、検出感度や結果の再現性を向上させることができる。

3.9 種のブドウウイルス{ブドウ葉巻随伴ウイルス(GLRaV)-1、-2、-3、ブドウ A ウイ

ルス(GVA)およびブドウ B ウイルス(GVB)、ブドウフレックウイルス (GFkV)、ブドウ

ファンリーフウイルス(GFLV)、Rupestris stem pitting-associated virus(RSPaV)お

よびブドウえそ果ウイルス(GINV)}の検出用プライマーを設計・選抜し、RT-PCR によ

る半日間での遺伝子診断を可能とした(図2)。

4.本法は複数のウイルスについての RT 反応を同時に行うことができるため、従来の方法

に比べ、試薬等に係るコストを大幅に低減できる。

[留意点]

1.ブドウウイルスは同じウイルスの中にも多くの変異系統が存在することが示唆されて

いる。検出用プライマーの結合部位の塩基配列のわずかな違いで、検出できない場合もあ

り得る。現在、多数のウイルス分離株の塩基配列解析を行い、最適なプライマー設計を継

続しているが、実際に試験を行おうとする際には、最新のプライマー情報を確認いただき

たい。

[今後の改良]

1.多くのウイルス変異株を検出するために、ディジェネレートプライマーを利用した PCR

や nested-PCR などの利用も有効であり、より確実な診断法を検討していく必要がある。

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ブドウ(葉柄または師部組織) 100 mgを細かく刻み、0.3 mlの磨砕バッファー*とタングステンボール(直径5 mm)とともに、2 mlの遠心チューブ(丸底)に入れる。

Mixer Mill MM300で磨砕(25Hz、30秒)

チューブに0.7 mlの磨砕バッファーを加え、磨砕液を新しいチューブへ移す。

遠心分離(10,000 回転/分、4℃、10分)

上清 -40 ℃で長期保存可

5倍量の0.5 % トリトンX100

熱処理(75℃、5分)

RT-PCR用サンプル

*磨砕バッファー:50 mM クエン酸ナトリウム pH8.3、20 mM ジエチルジチオカーバメート、2%(w/v)ポリビニルピロリドン K25、10 mM ジチオスレイトール

ブドウ(葉柄または師部組織) 100 mgを細かく刻み、0.3 mlの磨砕バッファー*とタングステンボール(直径5 mm)とともに、2 mlの遠心チューブ(丸底)に入れる。

Mixer Mill MM300で磨砕(25Hz、30秒)

チューブに0.7 mlの磨砕バッファーを加え、磨砕液を新しいチューブへ移す。

遠心分離(10,000 回転/分、4℃、10分)

上清 -40 ℃で長期保存可

5倍量の0.5 % トリトンX100

熱処理(75℃、5分)

RT-PCR用サンプル

*磨砕バッファー:50 mM クエン酸ナトリウム pH8.3、20 mM ジエチルジチオカーバメート、2%(w/v)ポリビニルピロリドン K25、10 mM ジチオスレイトール

1μl 熱処理済みサンプル

9μl RT反応液(ランダムプライマー、オリゴdTプライマー)

(GeneAmp Gold RNA PCR kit, Applied Biosystems)

25℃、10分→42℃、20分→99℃、5分*

1μl RT反応済みサンプル

9μl PCR反応液(ウイルス特異的プライマー)

(AmpliTaq Gold, Applied Biosystems)

95℃、10分→(94℃、20秒→58℃、20秒→72℃、40秒)×43*

アガロースゲル電気泳動による確認

* 反応装置は、GeneAmp PCR system (Applied Biosystems)を使用

1μl 熱処理済みサンプル

9μl RT反応液(ランダムプライマー、オリゴdTプライマー)

(GeneAmp Gold RNA PCR kit, Applied Biosystems)

25℃、10分→42℃、20分→99℃、5分*

1μl RT反応済みサンプル

9μl PCR反応液(ウイルス特異的プライマー)

(AmpliTaq Gold, Applied Biosystems)

95℃、10分→(94℃、20秒→58℃、20秒→72℃、40秒)×43*

アガロースゲル電気泳動による確認

* 反応装置は、GeneAmp PCR system (Applied Biosystems)を使用

図1 ブドウウイルス診断用サンプルの調整法と RT-PCRの流れ

(中畝(2003)植物防疫 57(12):548-551. より)

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ブドウのアントシアニン組成の品種間差異 果樹研究所ブドウ・カキ研究部 育種研究室 白石美樹夫

アントシアニン生合成経路(Boss ら1996)

p-Coumaroyl-CoACHS(chalcone synthase)

ChalconesCHI(chalcone isomerase)

Naringenin flavanoneF3’5’H(flavonoid 3’5’-hydroxylase)F3’H(flavonoid 3’-hydroxylase)

F3H (flavanone 3-hydroxylase)

Dihydrokaempferol F3’5’HF3’H

F3HF3H

Proanthocyanidins

Tannins

Leucodelphinidin

DFR(dihydroflavonol 4-reductase3’5’-hydroxylase)DFR

Leucocyanidin

デルフィニジンシアニジン

UFGT (UDP glucose-flavonoid 3-o-glucosyltransferase) UFGTデルフィニジン-3-グルコシドシアニジン-3-グルコシド

MT (methyltransferase)ペオニジン-3-グルコシド

MT MT

ペチュニジン-3-グルコシド マルビジン-3-グルコシド

LDOXDehydratase

(leucoanthocyanidin dioxygenase)LDOXDehydratase

PhenylalaninePAL(phenylalanine ammonialyase)

Eriodictyol Pentahydroxyflavanone

Dihydroquercetin Dihydromyricetin

弱酸性(pH2.7±0.17 Moskowitz・Hrazdina, 1981)に保たれている

K+やMg2+等のカチオン(金属イオン)は多量に含まれているが,果色に影響を及ぼすと考えられるAl3+,Fe2+,3+イオンの量は極

微量であり,アントシアニン色素との金属錯体は形成していない(Moskowitz・Hrazdina, 1981).

果皮細胞の液胞内は

さらに,フラボノール(Kaempferol, quercetin, myricetin)やフラボンとのCo-pigmentation効果による色彩変異の可能性は低い( Moskowitz・Hrazdina, 1981;Cheynier・Rigaud,1986;北村ら,2000)

果色の発現には,単位果皮(果皮重あるいは面積)当たりのアントシアニンの総量および組成が大きく寄与する(白石・渡部ら,1994;Bossら,1996)

ブドウの果皮色は多様な色調を呈し,生食用ブドウの

外観および醸造酒の色調を左右する重要な品質関連

形質である.

果皮色の発現には数層からなる果皮細胞の液胞内に蓄積するアントシアニン色素が関与している.

アントシアニン色素には抗酸化作用があり,近年ではガンや心臓病などの生活習慣病に対して予防効果のある機能性物質として注目されている.

巨峰(紫黒色) Muscat Hamburg(紫黒色) ルビーオクヤマ(鮮紅色)

ブドウのアントシアニン組成の品種間差異

農研機構果樹研ブドウ・カキ研究部育種研究室 白石美樹夫

ブドウ果皮色の多様性

シャインマスカット(黄緑~黄白色)

安芸クイーン(赤~濃赤色)

サニールージュ(赤褐~紫赤色)

安芸津24号(紫赤~紫色)

ダークリッジ(黒青色)

ブドウアントシアニン色素の化学構造

シアニジン(Cy)

B OH

OH

ペオニジン(Pn)

B OH

OCH3

デルフィニジン(Dp)

B OH

OH

OH

ペチュニジン(Pt)

B OH

OCH3

OH

マルビジン(Mv)

B OH

OCH3

OCH3

HO

OH

O

OH

BA

OH

R2

R1

アグリコン(アントシアニジン)の基本骨格

53

3′

5′

アグリコンには3位または3位と5位の位置に糖が結合(グリコシル(配糖体)化)し,さらにパラクマル酸等の有機酸が結合(アシル化)する場合もある.

シアニジンでは,シアニジン3-モノグルコシド Cy3 G

シアニジン3-パラクマリルグルコシド Cy3ρGシアニジン3,5-ジグルコシド Cy3,5 Gシアニジン3-パラクマリルグルコシド5-グルコシド Cy3ρG5Gの計4種類の構造をとりうるので,

5種類(シアニジン,ペオニジン,デルフィニジン,ペチュニジン,マルビジン)の

基本構造をもとに20種類のアントシアニン色素が存在しうる.

グルコースOOグルコース

5

HOO

BA

OH

3

OH

p-クマル酸

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ブドウ果皮からのアントシアニン色素の抽出・分析

高速液体クロマトグラフィ(HPLC)分析

(アントシアニン組成)

果粒を水洗後,新鮮表皮1.0~1.2g(半乾燥状態)を計量し,50%酢酸(v/v)溶液20ml中に浸漬し,4℃・暗黒下で24時間抽出

ろ過(ADVANTEC No.2)

ろ液10倍希釈A520nmの吸光度測定

(アントシアニン総量)ろ過(0.45μmメンブランフィルター)

成熟期の2~3果房から25~30果粒をランダムサンプリング

アントシアニン組成の分析例

時間(分)

520n

m

Pt3G

Pt3p

G

分析カラム: Inertsil ODS-2 (6.0×250mm) カラム温度: 35℃ 流速: 0.8m?/分

検出波長: 520nm移動相: [A液 1.5%りん酸,B液 1.5%りん酸・20%酢酸・25%アセトニトリル]

0分[A液75% B液25%] → 直線勾配 → 40分[A液15% B液85%]

アシル化色素

アントシアニン組成の品種間差異(配糖体型による分類)

OHグルコースO

単糖型

HO OB

AOH

3

R1

R2

O

5

グルコース

HO OB

AOH

3

R1

R2

二糖型

グルコースO

p-クマル酸

ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)極一部のアメリカブドウ(V.labruscana)

アメリカブドウ(V.labruscana)北アメリカ原産の野生種V. aestivalis, V. arizonica, V. longiiV. cordifolia, V. riparia 等

東アジア原産の野生種V. amurensis, V. coignetiae

p-クマル酸

果色とアグリコン(Cy, Pn, Dp, Pt, Mv)との関係では,

赤色系と黒色系において品種間に多様な変異が認められた.

アグリコンの性状と色彩との関係(白石・渡部,1994)

1.水酸化(Cy → Dp)メチル化(Cy → Pn, Dp → Pt, Dp → Mv)果色の色調は青味が強まる

2.配糖体化(単糖型 → 二糖型)アシル化(p-クマル酸の付加)果色をくすんだ青味がかった方向に導く

アントシアニン組成率(%)

赤色系品種の変異

Flame Tokay (Cy)

8040

Cy3GCy3pGCy3,5G

Cy3pG5GPn3G

Pn3pGPn3,5G

Pn3pG5GDp3G

Dp3pGDp3,5G

Dp3pG5GPt3G

Pt3pGPt3,5G

Pt3pG5GMv3G

Mv3pGMv3,5G

Mv3pG5G

安芸クイーン(Cy+Pn)

8040 8040

ジャスミン(Cy+Dp)

8040

ノースレッド(Pn+Cy+Mv)

アントシアニン組成率(%)

黒色系品種の変異

8040

Cy3GCy3pGCy3,5G

Cy3pG5GPn3G

Pn3pGPn3,5G

Pn3pG5GDp3G

Dp3pGDp3,5G

Dp3pG5GPt3G

Pt3pGPt3,5G

Pt3pG5GMv3G

Mv3pGMv3,5G

Mv3pG5G

Steuben(Cy+Dp) Campbell Early(Dp+Cy)

8040

安芸シードレス(Dp+Mv)

80408040

巨峰(Mv+Dp+Pn)

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黒色系および赤色系品種のアントシアニン組成の比較では,主要アグリコンの種類が類似しているのに表現形質の果色が異なる場合がある

この一因として

アントシアニン総量と明度との関係栽培環境によって果皮当たりのアントシアニン総量が多くなる場合はアントシアニン組成の差異に係らず,本来赤や紫色の色調を示す品種の色調が黒色化する(白石・渡部,1994;北村ら,2000)

0.5

1.0

~~

0.98 プリマシードレス(紫赤~紫黒 Cy,Dp)

黒色化

0.57 サニールージュ(赤褐~紫赤色 Cy,Pn,Mv)0.50 Delaware(赤褐~紫赤色 Cy,Pn)

0.40 赤嶺(赤色~濃赤 Cy,Pn)

0.35 安芸クイーン(赤色~濃赤 Cy,Pn)

0.29 陽峰(赤色~濃赤 Cy)

0.23 Chasselas Rose(赤褐色 Cy,Pn,Mv)0.22 ルビ-オクヤマ(赤色 Cy,Pn)

0.13 Flame Tokay(赤色 Cy)

アントシアニン総量/果皮1g

(52

0nm

吸光

度)

Slinkard・Singleton (1994)の仮説

栽培ブドウの改良原種となる野生種は全て黒色系で栽培化が進むに伴い,突然変異によって黄緑色ブドウが成立した

今後の展望(アントシアニン組成の遺伝生化学)

Bossら(1996),小林ら(2004)の知見

黄緑色ブドウから赤色系ブドウの出現がアントシアニン生合成を制御する転写調節遺伝子レベルで解明されつつある・・・

黒色系の野生ブドウ1突然変異

黄緑色ブドウ突然変異

赤色系ブドウ

2 黒色系の野生ブドウ

突然変異

交雑

黄緑色ブドウ

赤色系ブドウ

1 色素B環の水酸化とメチル化の一般的な遺伝的優・劣性

シアニジン(Cy)

B OH

OH

デルフィニジン(Dp)

B OH

OH

OH

劣性

突然変異

水酸化

2 アグリコンのグリコシル化とアシル化の一般的な遺伝的優・劣性

メチル化

デルフィニジン(Dp)

B OH

OH

OH

ペチュニジン(Pt)

B OH

OCH3

OH

マルビジン(Mv)

B OH

OCH3

OCH3

劣性 劣性

グリコシル化

二糖型 単糖型

劣性

突然変異

アシル化

高アシル化 低アシル化劣性

黒色系品種の液胞内にはアントシアニンを吸収するアントシアノプラストと呼ばれる赤~濃赤色の球状体が存在する(Moskowitz・Hrazdina, 1981; 中村,1989) .

黒色系品種 赤色系品種

(Delaware ,×400)

(サニールージュ,×400)

(Campbell Early ,×400)

(巨峰,×400)

赤色系品種では僅かに存在するかあるいは全く認められていない.さらに,品種間の着色の濃淡とアントシアノプラスト発現の程度には密接な関係がある(片岡・中藤,1996) .

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栽培管理とブドウ着色の関係 広島県立農業技術センター果樹研究所 山根崇嘉

1.広島県における‘安芸クイーン’の着色 広島県の瀬戸内沿岸地域には,ブドウ‘マスカット・ベリーA’,‘デラウェア’を中心

とした古くからのブドウの産地があり,県内の栽培面積 330ha の内 210ha を占めている.

これらの品種は近年単価が下落し,高単価な大粒系品種への転換が進んでいる.中でも‘安

芸クイーン’は赤色で美しく,良食味であるため,高単価で取引されており,導入が急速

に進んでいる.しかし,瀬戸内沿岸部では成熟期が高温となり,良好な着色が得にくい.

着色の違いは価格に大きく反映され,着色不良な並品は着色良好な秀品の半値以下となる.

瀬戸内沿岸部産地のブドウ成熟期の平均気温は約 27~28℃となる.広島県中北部産地で

は 25~26℃であり,その差は約 2℃である.2030 年代には平均気温が約 2℃上昇すると予

測されており,現在着色の良い産地においても地球温暖化に伴い着色不良問題が発生する

と予想される. 広島県におけるブドウの主産地は,温暖な瀬戸内沿岸から冷涼な県中北部の中国山麓ま

で広がり,地形的にも気象的にも栽培環境の地域差が大きい.年平均気温は第 1 図のよう

に分布している.北部ではリンゴ,沿岸部では柑橘類が栽培されており,日本の縮図とい

われている. ブドウは県北部から沿岸部までほぼ県下全域で栽培されているが,冷涼な地

域では酸抜けが悪く,温暖な地域では着色が不良となるため,主に年平均気温 14℃から 18℃

の地域を中心に分布している.

広島市

: ~1.0

:1.0~2.0

:2.0~3.0

:3.0~4.0

:4.0~5.0

加温ハウス市街地

北部

沿岸部

第1図 広島県における年平均気温と‘安芸クイーン’の着色

着色指数(三重県作成‘安芸クイーン’専用カラーチャート値)

:11.2℃~13.3℃

:13.3℃~15.4℃

:15.4℃~17.5℃

:17.5℃~19.4℃

: 9.1℃~11.2℃

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温度による着色への影響は‘安芸クイーン’などの大粒の赤色系品種において顕著であ

る.‘安芸クイーン’のカラーチャート値(三重県‘安芸クイーン’専用チャート 0~5 段

階)は北部産地では 4 以上となり,年によっては過着色となることもある.中北部産地で

はカラーチャート 2~3となっており,沿岸部や市街地の成熟期に気温の高い地域ではカラ

ーチャート 0~1 であり,緑の地色に若干紅がのる程度となっている(第 1 図).沿岸部に

位置しても,熟期の早い加温ハウスでは成熟期の気温が低く着色が優れる.

2.いつの時期の気温が着色にとって重要か? 温度とブドウ着色との関係は古くから報告されており,硬核期以降の高温が‘デラウェ

ア’の着色を抑制すること(内藤・植田,1964),果粒周辺あるいは果粒自身の温度が影響

すること(苫名ら,1979)などが報告されている.我々は,いつの時期の温度が着色に与

える影響が大きいのか明らかにするため,昼夜温とも 20℃および 30℃に設定したコイトト

ロンを用いて温度処理を行った.温度処理は着色開始前から収穫日にかけて 2 週間毎にポ

ット樹をコイトトロン内に運び込むことにより行った.その結果,着色開始後 1週目~3週

目の温度の影響が特に大きく,温度の感受性が高い時期であった(Yamane et al., in

submission).その翌年に,より詳細に温度に感受性の高い時期を明らかににするため同様

の実験を行い,着色開始後 8~21 日目に温度に敏感な時期があることを再確認した.

また,着色に好適な温度帯について温度勾配培養器を用いて実験を行った結果,着色に

好適な温度は 21℃を中心に,18~24℃であることを明らかにした.

これらのことより,ブドウの着色に対する栽培適地を,気温から推測することが可能で

ある.また,温暖な地域であっても,着色に適切な熟期を把握することにより,着色に有

利な条件にすることができる.広島県の沿岸部を例にとると,加温施設を整備しなくても,

保温を工夫することより,着色にかなり有利な条件を作出することが可能となる.

3.効果的な環状剥皮方法について 環状剥皮による着色の向上は以前から知られている(大井上,1937,山本ら,1992).し

かし,瀬戸内沿岸部暖地での‘安芸クイーン’への環状剥皮処理は効果が小さく,着色改

善には不十分であった.そこで,より効果的な環状剥皮方法を明らかにするため,着果負

担と環状剥皮の効果について確認した.

はじめに葉数の異なる新梢の基部に満開後 30 日に環状剥皮を処理し,着色への影響を見

たところ,環状剥皮の効果は葉面積に大きく影響を受けており,葉数の多い新梢で著しく

着色が向上した.

次に満開後35日に主幹に環状剥皮し,着果量と着色との関係を明らかにした.着果量

はすべての新梢に着果させる区(2.5t/10a),および半分の新梢に着果させ,残りの新梢を

空枝とする区(1.25t/10a)の 2区とし,それぞれ環状剥皮処理の有無により合計 4区とし

た.その結果,環状剥皮および着果量 1/2 でアントシアニン含量は増加したが,着果量を

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1/2 にし,その上で環状剥皮処理を行うことによりアントシアニン含量は大きく上昇した

(Yamane and Shibayama, in submission).光合成同化産物の新梢間の転流量は少ないと

されているが(Quinlan and Weaver, 1970),環状剥皮した場合,空枝の葉も結果枝の葉と

同様に着色向上に寄与することが推測された.

一方,着果負担と環状剥皮処理については根の伸長をあわせて調査している。環状剥皮

処理は光合成産物が根へ転流するのを遮り,果房へ集中させるが,その間根の伸長が停止

する。根の伸長の停止は翌年の樹勢の低下の原因となる可能性がある。本実験では剥皮処

理により約2週間根の伸長が停止した。しかしながら,剥皮のゆ合後においては根は剥皮

しない区よりも旺盛に伸長した。特に着果負担を減らした区では根の再伸長量が大きく,

最終的には剥皮をしなかった区に追いつく結果となった。成熟期においては根と果房は最

も大きなシンクであり,養分の競合関係にある(Miller ら 1996)。着果負担が少ない状態

で環状剥皮処理を行えば,効果が大きいだけでなく,根の再伸長も大きく,樹へのマイナ

スの影響が小さいと考える。

4.最大葉面積指数について 葉面積指数は‘デラウェア’では 2~3が適度で,最大葉面積指数は 3に近いことが報告

されている(高橋,1985).一方,着色には果房への光が影響する.‘安芸クイーン’では,

果房への光を重視するため,LAI2 程度が適当とされている.ここでは ‘安芸クイーン’で

の最大葉面積指数を明らかにした.

実験は H型整枝樹 1樹を用い,1m あたりの結果枝数を主枝片側につき 4~9本配置するこ

とにより,LAI を 1.7~3.9 まで変化させ行った.新梢間の転流を遮るため各結果枝の基部

に環状剥皮を行った.その結果,1m に 4 結果枝(LAI1.74)または 5 結果枝(LAI2.18)配置

した区では着色開始が早く,着色開始直後にカラーチャート値が増加した.一方,1m に 6

結果枝(LAI2.62)および 7結果枝(LAI3.05)では着色開始後 20~30 日までの着色の上昇が大

きく,最終的に 1m に 7 結果枝(LAI3.05)が最も着色が優れた.以上のことから‘安芸クイ

ーン’では果実への直接的な光より,光合成量を最大化する方が,着色には有利と考えら

れ,最適 LAI は若干暗い 3程度であると考えられる.

5.現地での着色改善技術について これまでの結果に基づき,現地で総合的な着色改善技術を実施した.実験を行った現地

圃場は瀬戸内沿岸部暖地に位置し,2003 年はカラーチャート 1 以上の果実がほとんどなか

った.また,これまでに環状剥皮を行ったことがあるが,ほとんど着色が改善しなかった.

2003 年の実態調査より園の特徴として,1.かん水の不足により成熟期に元葉が早期落葉し

ていること.2.果実に光を当てるため結果枝基部の副梢葉を除去していること.の 2つの理

由から葉数が不足していると考えられた.2004年にその対策として,1.かん水量を増やし,

早期落葉を防止した.2.副梢葉を各節 1 枚残し,先端の副梢を 5~6 枚残した.3.その上で

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主幹部に 2cm幅で満開後 30日に環状剥皮を行った.4.収量は減らさず,2t/10aとした.そ

の結果,カラーチャート値が無処理区 0.8に対し改善区 3.3となり,ほとんどが秀品となっ

た.

6.果粒の大きさについて

現地で環状剥皮処理を行う中で,これまでに述べてきたように葉を有効に利用し,着果

量を減らして環状剥皮を行っても着色がそれほど改善しない園が認められた。これらの園

では着果負担は適正であっても果粒が大きく,1粒重が 20g近くであった。房の中で果粒重

と着色との関係をみたところ,果粒の大きさと着色の間に高い相関が認められた。このこ

とから果粒の大きさは着果負担とは別の要因として考える必要があり,着果負担を軽減し

て環状剥皮処理を行っても,果粒の大きさが大きい場合は効果が小さくなる。果粒の大き

さはジベレリン処理の時期や濃度によって調整が可能なので,着色とのバランスを考え,

最適な果粒重に調整する必要がある。

7.施肥について

窒素も着色を阻害する要因の一つである。ポット樹を用いて液肥の実験を行った。すな

わち,発芽から収穫まで水のみを施用する区と液肥のみを施用する区を比較した。その結

果,水飲みの区では着色が進んだが,液肥区ではほとんど着色しなかった。

現地(瀬戸内沿岸部暖地)において土壌中の窒素含量の推移を確認した結果,生育初期

から収穫までの間窒素含量が非常に低い園においても,着色は不良であったことから,窒

素の調整だけでは着色の改善は困難である。また,有機物を大量に施用した履歴のある園

では成熟期に土壌中の有機物が無機化し,窒素含量を抑えることが困難であった。

一方,多肥条件での環状剥皮の効果を確認するため,液肥のみで育成したポット樹にお

いて環状剥皮処理を行ったところ,着色が大きく改善した。多肥条件であっても環状剥皮

は有効であり,多肥園の着色改善に有効であろう。窒素過多園においての管理の要点とし

ては,1.副梢をこまめに切除し,過繁茂を防ぐこと,2.果粒が大きくなりやすいので,

ジベレリン処理方法を調節するなどし,果粒を大きくしすぎないこと,3.その上で環状

剥皮を行えば良好な着色が得られると考える。

8.今後の課題

今後現地での実証地点数を増やし,環状剥皮の問題点をフィードバックし,環状剥皮を

安定した技術としていく予定である.また,環状剥皮処理については樹が衰弱する可能性

があるといわれている.一方で,着色に重要な期間は限られており,短い期間の剥皮で,

十分に効果があることを明らかにしている.現在一般的に 2~5cmの幅で行われている環状

剥皮処理はもっと狭い幅でよいのではないかと考えている.現在,効果的で樹体へのマイ

ナスの影響が少ない剥皮幅および剥皮時期について検討している.

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また,弱樹勢樹では剥皮をすべきでないとされているが,環状剥皮に対する樹勢の判断

基準がない。今後は樹勢の違いと剥皮の効果やマイナスの影響を数値的にあきらかにし,

指標化していく予定である。

9.引用文献 大井上康.1937.葡萄之研究.pp.550-557

苫名孝・宇都宮直樹・片岡郁雄.1979.樹上果実の成熟に及ぼす温度環境の影響(第 2報)

ブドウ‘巨峰’の果実の着色に及ぼす樹体及び果実の環境温度の影響.園学雑 48:

261-266

高橋国昭.1985.ブドウ‘デラウェア’の最適葉面積指数について.園学雑 54:293-300

内藤隆次・植田尚文.1964.ブドウ果実の着色に関する研究(Ⅳ)夏期の昼間の高温がデ

ラウェア種果実の着色及び成熟に及ぼす影響.島根農科大学研報 13:10-14

山本孝司・高橋国昭・高田光.1992.環状はく皮によるブドウの着色向上技術.近畿中国

農研.83:38-42

Miller, D. P., G. S. Howell, and J. A. Flore. 1996. Influence of shoot number and

crop load on potted Chambourcin grapevines. I. Morphology and dry matter

partitioning. Am. J. Enol. Vitic. 47:380-388.

Quinlan, J. D., and R. J. Weaver. 1970. Modification of pattern of the photosynthate

movement within and between shoots of Vitis vinifera L. Plant Physiol. 46:527-530.

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ブドウ品種の生産動向と育種 ブドウ生産の現状 ブドウの 2003年の国内生産量は 22.1万t、栽培面積は 20,600haである。産出額は 988億円で、果樹生産のうち、ミカン(1,372 億円)、リンゴ(1,295 億円)についで第3位であり、国内果樹産出額の 13%を占める。生産量はミカン、リンゴ、ナシ、カキに次いで第五位、栽培面積もミカン、リンゴ、クリ、カキに次いで第五位となっている。 わが国におけるブドウ生産の9割近くは生食用であり、残りはブドウ酒・ジュース等に

用いられるが、その割合は過去 15年間、ほとんど変化していない。 わが国からのブドウの輸出はほとんど無い一方、12,000t程度の生鮮果実が輸入されている。また、果汁として 2003年には 22,543 kl輸入されており、かなりの割合がブドウ酒の原料となると見込まれる。 ブドウ生産は戦後、一九七0年代末に至るまで拡大してきたが、その後、しだいに漸減

している(図1・2)。 生産量を 2001~2003年平均と 1980年の比で見ると、ブドウは 0.70である(図3)。この間には、ミカンが 0.41、ナツミカンが 0.22、ハッサクが 0.30と激減したのに対し、ウメが 1.69 と大きく伸び、リンゴが 0.94、カキが 1.03 とほぼ産業を維持している。そして、ブドウ、ナシ、モモは 0.7前後まで減少した。これは果物と競合するジュースや菓子などの食べ物の発展に対し、消費者が果物を選択した結果を反映している。それぞれの樹種で消

費者の嗜好・ニーズに合う商品を提供できたかどうかはその増減の要因であろう。また、

収量性がある品種を生産できれば、より低価格で供給でき、生産・消費量が大きくなる。

0

5

10

15

20

25

30

35

1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000

年次

生産

量(万

t)

0

5

10

15

20

25

30

35

1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000

年次

栽培

面積

(千ha)

図1.ブドウ生産量の推移(全 図2.ブドウ栽培面積の推移

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0

5000

10000

15000

20000

25000

30000

35000

1936 1956 1980 2003

年次

栽培

面積

(ha)

その他

スチューベン

甲斐路・赤嶺

ピオーネ

巨峰

ネオマスカット

ベーリーA

ナイアガラ

甲州

キャンベル

デラウェア

ブドウ品種の生産動向 栽培されてきたブドウ品種の移り変わりを図4に示

した。わが国のブドウ生産は、明治になり外国から多く

の品種が導入されたが、主に耐病性の強いデラウェア、

キャンベルアーリーが選択され、わが国原産の甲州と合

わせ、戦前にも主要品種であった。戦後も 1970年代までデラウェアとキャンベルアーリー主体の栽培であっ

たが、それ以降、これらの品種は減少を続け、特にキャ

ンベルアーリーは激減した。1960年代にはデラウェアはジベレリンによる種なし栽培となった。一方、巨峰が

弱剪定等による栽培技術が確立し、1970 年代以降、大きく増大した。 過去25年間の大きな動きは、キャンベルアーリーの激減、デラウェアの減少、巨峰・

ピオーネの増大、ベーリーAなどの漸減ということができよう(図5)。また、甲斐路・赤嶺といった肉質の優れる欧州ブドウも山梨を中心に栽培された。青森ではスチューベンが

栽培され、遅い時期に出荷されている。 このような品種の変化はジベレリンによる種なし栽培化、大粒化、高品質化(特に、肉

質は欧州ブドウの硬い崩壊性に近づいた)、という3つにまとめることができる。これは消

費者のニーズを反映したものと考えることができる。

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

1.8

うんしゅうみ

かん

なつ

みか

はっさく

いよ

かん

りん

日本

なし

ぶど

うか

き もも

うめ くり

2001

-200

3年

平均

生産

量/

1980年

生産

量の

図3.主な果樹における 2001-2003 年平均国内生産量/1980年国内生産量の比

図4.ブドウ主要栽培品種の変化

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ブドウの品種群 ブドウは主に噛み切れやすく硬い肉質の欧州ブドウ品種群があり、食味が優れるが、原

産地の降雨が非常に少ないことに適応しているため、降雨の多い日本では病害・裂果の多

発、縮果病などの生理障害の発生などにより栽培が難しい。これに対し、デラウェアやキ

ャンベルアーリーなどはアメリカブドウに属し、特有の香り(フォクシー香)を持ち、降

雨の多い条件に適応し耐病性が強く、耐寒性も強い。しかし、その肉質は噛み切れにくく、

欧州ブドウに比べて食味が劣る(図6)。 肉質がかみ切りにくいものを塊状、かみ切りやすいものを崩壊性と呼んでいる。キャン

ベルアーリーやデラウェアは塊状、マスカットオブアレキサンドリアや甲斐路は崩壊性、

巨峰・ピオーネはその中間である。崩壊性で硬い肉質の食味がよい。 巨峰・ピオーネは従来のアメリカブドウ品種をさらに欧州ブドウと交雑して作出されて

おり、肉質は欧州ブドウに近づいたが、まだその中間である。耐病性もデラウェアなどよ

り劣るが、農薬の発達により露地栽培できる。また、西日本では生育期の降雨が多く(ジ

ベレリン処理をする品種は特に)、ビニール被覆栽培が発達している。

1956年

デラウェア

キャンベル

甲州

ナイアガラ

ベーリーA

ネオマスカット

その他

1980年

デラウェア

キャンベル甲州

ナイアガラ

ベーリーA

ネオマスカット

巨峰

ピオーネ

その他

2003年

デラウェア

キャンベル

甲州

ナイアガラ

ベーリーA

ネオマスカット巨峰

ピオーネ

甲斐路・赤嶺

スチューベン

その他

図5.ブドウ栽培品種の割合の変化

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果樹品種の増加・減少の模式化 果樹品種の栽培の増大と減少を図7のように模式化することを試みた。消費者ニーズに

合った新品種は誕生した時からその需要は高いが、生産はそれに追いつかず供給量が少な

いため、高価格で販売される。そして、新品種も栽培技術が確立され、普及が進む段階で

も価格は生産費より高く、有利な販売によって生産の拡大が進む(A段階)。生産量が需要と見合うだけ多くなるとあまり有利ではないが、基幹品種として生産される(B段階)。その後、日進月歩で変わっていく甘味食品、ジュース、他の果物や品種との競合の中でしだ

いに需要は漸減する。その時には、販売価格は生産費を下回り、生産をやめる人が出て生

産は縮小していく(C段階)。新品種が栽培されるようになってから、リンゴのふじ、ナシの幸水、ブドウの巨峰など優れた品種は 40 年くらいかかって生産が A 段階から B 段階に到達している。 巨峰は 2000年頃より栽培が減少に転じている。これは不況の影響も考えられるが、巨峰の生産量が需要に届いてしまったことを示唆しており、今後、巨峰の需要は少しずつ減少

していくと考えられる。キャンベルアーリーは糖度が低いことおよびアメリカブドウ特有

の肉質が評価されず大きく減少するC段階にある。種なしデラウェアも、他のブドウの無

い早生の時期に成熟する有利性がありながら、他の食べ物との競合の中でC段階になり、

減少していると考えられる。 一方、ピオーネは巨峰とよく似た食味と外観を持っているが、ほとんどがジベレリンに

よって種なし栽培されている。まだ巨峰の1/3程度の栽培しかなく、生産の増加が続い

マスカットオブアレキサンドリア

デラウェア

キャンベルアーリー

かみ切れやすい( )

かみ切れにくい ( )中間

軟らかい

硬い

図6.

マスカットオブアレキサンドリア

デラウェア

キャンベルアーリー

かみ切れやすい( 崩壊性 )

かみ切れにくい ( 塊状)中間

軟らかい

硬い

図6.

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ている。消費者ニーズは種なし化にあるので、種有りの巨峰より種なしのピオーネに対す

る需要はまだ大きいものがある。そこで、最近、巨峰のかなりの部分が種なし栽培される

ようになってきた。 しかし、種なし栽培することは労力・コストがかかり、種有りの巨峰より生産費は高く、

種有り巨峰ほど低価格では生産ができない。したがって、これらの種なし栽培は今後、こ

れまでの種有りの巨峰ほど大面積に栽培するには難があるといえよう。 この 10年間に伸びてきた品種には、極大粒の藤稔(195ha、2003年)、大粒の欧州ブドウのロザリオビアンコ(208ha、 2003年)、肉質優れ赤色大粒の安芸クイーン(86ha、2003年)などがある。藤稔は裂果性、ロザリオビアンコは耐病性等、安芸クイーンは着色性等が課題である。 果樹研究所におけるブドウ育種 今後の生産の発展には消費者ニーズをつかんだ大粒・種なし・高品質のブドウ新品種の

開発の効果は大きい。また、より収量性のある品種、安定生産しやすい品種が望まれる。 果樹研究所のブドウ育種では、「耐病性・耐裂果性があり、大粒で肉質の優れ、ジベレリ

ン処理により種なし生産の可能な品種」の育成を主な目標とし、耐病性のある米国系ブド

ウ品種と、肉質・食味が優れる欧州ブドウを交雑して育種を行ってきた(欧米雑種の育種)。

芳香のある品種をめざしている(既存の経済品種にマスカット香のあるものが少ないこと

から、マスカット香も重視している)。温暖化も進むと見込まれ、着色の優れる品種も目標

としている。安定して赤または黒に着色する品種が望ましい。また、短梢剪定が可能で、

省力で収量性の優れる品種も目ざしている。さらに、日持ちがよいこと、皮離れがよいこ

と、耐寒性が優れることなども目標である。

栽培減少(C段階)新品種栽培増加(A段階)

需要より供給が少ない=販売価格の方が生産費より高い

販売価格と生産費が同じ

需要が縮小し、供給過剰=販売価格が生産費より低い

品種安定(B段階)

栽培減少(C段階)新品種栽培増加(A段階)

需要より供給が少ない=販売価格の方が生産費より高い

販売価格と生産費が同じ

需要が縮小し、供給過剰=販売価格が生産費より低い

品種安定(B段階)

栽培減少(C段階)新品種栽培増加(A段階)

需要より供給が少ない=販売価格の方が生産費より高い

販売価格と生産費が同じ

需要が縮小し、供給過剰=販売価格が生産費より低い

品種安定(B段階)

図7.品種の増加・減少モデル

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この育種は、国立機関である果樹研究所と公立試験研究機関が協力して行っている。果

樹研究所で育成・選抜した系統の試作試験(系統適応性検定試験)がブドウ生産地の公立

試験研究機関(現在、35 場所)で行われる。検討の結果、特性が解明され、普及性があると判断された系統を選抜して農水省育成品種として発表する。

1990年代に育成された品種は、耐寒性・耐病性があり、キャンベルアーリーより糖度の高いノースレッドとノースブラック(2倍体、肉質=塊状、果粒重4~5g)(安芸津では

ノースレッドは開花時新梢長 70~80cm程度に管理すると花振るいは問題にならない)、肉質が硬く、日持ちのよい黄緑色の「ハニーシードレス」(3倍体、肉質=中間、果粒重5~

6g)、大粒で肉質が優れ、赤色の「安芸クイーン」(4倍体)、糖度が高く着色のよい紫黒

色の「ハニーブラック」(4倍体)、紫黒色で着色のよい「ダークリッジ」(4倍体)、黄緑

色で糖度と肉質の優れる「ハニービーナス」(4倍体)、早生で肉質がよく、栽培容易な「サ

ニールージュ」(4倍体、果粒重=5~6g)である。 また、べと病抵抗性が巨峰なみであり、肉質が崩壊性で硬くてマスカット香があり、大

粒で黄緑色の品種「シャインマスカット」(2倍体)を 2003 年に、肉質が崩壊性で硬く、栽培容易な大粒の紫色品種「オリエンタルスター」を 2004年に育成された。

(山田昌彦)