Post on 16-Feb-2020
3回生「材料組織学1」 緒言
2013 年度 担当:辻
40
2.6.1 全率固溶型 A と B が液相においても固相においても完全に溶け合う(miscible な)場合(Fig.2.30)。(Ω<0、ΔHmix<0)
Fig.2.30 全率固溶型合金における組成-自由エネルギー曲線と状態図
T1:全組成域で GS>GL;全域で液相が安定 Tm(A): XB=0で GS=GL;純金属 Aの融点 T2:GSと GLに共通接線が引ける;二相共存域 Tm(B): XB=1で GS=GL;純金属 Bの融点 T3:全組成域で GS<GL;全域で固相が安定 T1から温度が下がるにつれ、固相と液相の自由エネルギーGSと GLは増加するが、
その相対的な位置関係が変化する。より具体的には、温度が低下するにつれて
€
− T ΔSmixの寄与が小さくなることから、GSよりもGLの方がより急激に増加し、また、
自由エネルギー曲線の曲がりが緩やかになる。 二相の自由エネルギーが交差し共通接線の引ける領域、すなわち二相共存領域が現
れることが、二元系合金の特徴である。
3回生「材料組織学1」 緒言
2013 年度 担当:辻
41
2.6.2 溶解度ギャップ(Miscibility Gap)が現れる系
Fig.2.31 溶解度ギャップが現れる系の組成-自由エネルギー曲線と状態図。
€
ΔHmixS > ΔHmix
L = 0。(a) T1, (b) T2, (c) T3。 Fig.2.31:液相はほぼ理想溶体で、固相では
€
ΔHmix > 0の場合(Ω>0、A 原子と B 原子が反発し合う系)。 T1:全組成域で GS>GL;全域で液相が安定 T2:中間組成域で固相の自由エネルギーが高いため、液相の自由エネルギーの方が低
くなる。中間組成で最小融点が現れる。 T3(低温):固相の自由エネルギー曲線に変曲点が現れ、上に凸の領域が生じる:Aリッチなα’相と Bリッチなα’’相に分離する。(溶解度ギャップ、二相分離曲線)。温度が上がると
€
− T ΔSmixの寄与が大きくなり、二相分離域が消滅する臨界温度に達する。
3回生「材料組織学1」 緒言
2013 年度 担当:辻
42
2.6.3 規則合金
Fig.2.32 (a)
€
ΔHmixS < 0の場合の状態図。(b) aよりもさらに
€
ΔHmixS が大きな負の値を
示す場合。 Fig.2.32:前節とは逆に、
€
ΔHmixS < 0の場合。(Ω<0)
Aと Bが混ざり合うと固相はより安定になるので、中間組成で最大融点が現れる。 低温では規則相が出現する傾向がある((a)中のα’相)。 より
€
ΔHmixS が大きな負の値を示す場合、中間相βがより高温まで、場合によっては溶
融するまで安定になる(b)。
3回生「材料組織学1」 緒言
2013 年度 担当:辻
43
2.6.4 単純共晶(Eutectic)系
€
ΔHmixS が0よりもずっと大きい場合、Fig.2.31(d)に示した溶解度ギャップは液相領
域まで拡大する。この場合、Fig.2.33および Fig.2.34に示すような共晶型の状態図が生じる。共晶温度では、3相平衡が実現される。
Fig.2.33 2種の固相が同じ結晶構造を持つ場合の組成-自由エネルギー曲線と共晶
状態図
Fig.2.34 2種の固相が異なる結晶方構造を持つ場合の組成-自由エネルギー曲線と
共晶状態図
3回生「材料組織学1」 緒言
2013 年度 担当:辻
44
2.6.5 中間相を含む状態図 安定な中間相が現れる場合、その相に対応した自由エネルギー曲線を考慮に入れる
必要がある。Fig.2.35 はその一例であり、この図には、L + α ⇄ β という包晶(peritectic)反応も含まれている。
Fig.2.35 中間相と包晶反応を含む状態図とそれに対応する組成-自由エネルギー曲
線。
3回生「材料組織学1」 緒言
2013 年度 担当:辻
45
Fig.2.36 状態図上で中間相(β)が安定となる組成範囲は、他の相の自由エネルギーとの相対関係で決まり、最小自由エネルギー値を示す化学量論組成から外れること
もあり得る。 Fig.2.36から分かるように、中間相の安定性は、他の相の自由エネルギー曲線との相対的な関係(共通接線関係)により決まるので、状態図上に現れる中間相の安定組
成範囲が、最小エネルギーを与える組成と必ずしも一致しない場合があり得る。こう
したことは現実にしばしば起こり、例えば Cu-Al系のθ相は、Cu2Alと表記されるが、平衡状態図上のθ相の存在範囲は、XCu=1/3、XAl=2/3の位置を含んでいない。
3回生「材料組織学1」 緒言
2013 年度 担当:辻
46
2.6.6 ギブスの相律 二元系における二相の平衡条件は、式(2.46)または(2.47)で与えられる。
€
µAα = µA
β , µBα = µB
β (2.46)
€
aAα = aA
β , aBα = aB
β (2.47) より多くの成分、相を考える場合の一般形は、ある成分の化学ポテンシャルがどの相
においても同一であることであり、
€
µAα = µA
β = µAγ =…
µBα = µB
β = µBγ =…
µCα = µC
β = µCγ =…
(2.48)
と表される。 この一般的な関係より、ギブスの相律(Gibbs phase rule)が導かれる。すなわち、C個の成分と P個の相から成る系が平衡状態にある場合、系の自由度 Fは、
€
P + F = C + 2 (2.49) 自由度 Fとは、T, P, XA, XB, …のような、平衡を保ちつつ独立に変化することができる示強変数(量に依存しない変数)の数である。いま、圧力を一定とすると、自由度
が一つ減り、
€
P + F = C +1 (2.50) 今考えている二元系合金では C=2であるから、
€
P + F = 3 すなわち、単相の二元系合金には、自由度が2つある:温度 Tと組成 XBが独立に変
化できる。二相平衡領域であれば、P=2なので、F=1。すなわち、温度 Tを選択すれば、もはや自由度はなくなり、2つの相の組成 XBは一義的に決定される。共晶温度
や包晶温度のように、3相が平衡である場合、自由度はゼロであり、各相の組成と温
度が一義的に決定される。